تسجيل الدخولマジェスタはカイトを落ち着かせようとする気遣いを柔和な表情に滲ませてみせた。
「貴殿の困惑は至極当然でございます。ですが、失礼を承知の上で早急に確認させていただきたい点が一点だけございます」
カイトは眉根を寄せて露骨に警戒を表わしながらも、
「確認したい点とは、なんでしょうか?」
とマジェスタに対して「話は聞く」というスタンスで応じた。
「私どもに、付いてきていただけますか?」
「……どこへ行くんですか?」不審を隠さずに聞き返したカイトに対し、柔和な表情を崩さないマジェスタが端的に即答した。
「病院でございます」
マジェスタの口から出た「病院」という意外な単語にカイトは片眉を上げてみせた。
「……病院、ですか? 俺の身体検査……いや、検疫の必要でも?」
この状況で検疫に考えが及ぶカイトの思慮に満足したマジェスタは、微笑を浮かべてから首を横に振った。
「いえ、検疫の必要はございません。貴殿に治癒魔法の行使を試していただきたいのです」
治癒魔法というファンタジーな言葉に触れたカイトは素直な反応をみせた。
「治癒魔法? 待ってください。魔法なんて使えませんよ、俺は」
「召喚は成功しております。こうして会話が成り立っているのが証左でございます。ならば治癒魔法も使えるはずなのです」すかさず答えたマジェスタの断定する口調に対し、カイトは困惑を隠せなかった。
(召喚があるファンタジーな異世界だ。そりゃあ治癒魔法だって存在しても……いや、治癒とか蘇生なんかに関する魔法はその世界の設定に直結するってのが異世界ファンタジーのお約束だ。ここは慎重に確認しとくべきだな……ラノベを好きだったのが意外と役に立つかもしれない……待て、俺はこんな状況でここまで冷静に考察できるほど順応性が高かったか? これも俺の身に起きた変化のうちってことか……?)
考えを巡らせていたカイトは、何気なく視線を動かしたタイミングで気付いた。
カイトは濃紺の軍服を着た青年四人に取り囲まれていた。 青年四人は燭台が乗った祭壇と同様に、等間隔で四方からカイトに向かって右腕を伸ばし手のひらをかざしていた。 四人は一様に緊張を露にしており、その表情は敵対というより懇願に近かった。 状況をすんなり理解したカイトは、ふうと短く嘆息してみせてから、「どうやら……俺に、拒否権はないようですね」
と諦観した口調でマジェスタに答えた。
「恐れ入ります。流石は召喚に応じられた御方でございます。理解に即した判断の早さに感服いたします。では、ご案内いたします」
マジェスタはうやうやしく左手でドアを指し示し、カイトに部屋を出ることを促した。
「……わかりました」
カイトは小さく首肯して短く答えた。
またしても音も無くカイトが気付かないうちにドアの前へと移動していた青年が開けたドアから、諦観を顔に浮かべたカイトはゆっくりとした歩調を意識しながら部屋を出た。 薄暗かった部屋から一変して明るい廊下だった。 白で統一された壁と天井の廊下には、そこかしこに装飾が施されており「まさに王宮」といった印象をカイトは持った。 病院というからには城は出るんだろうな……と予想していたカイトは驚いた。 王宮の中庭と思われる異様に広い庭園の中央に、小さくはない白亜の建物が建っており、それが病院だと聞かされたからだった。(王宮の中……しかも中央と思われる位置に病院? 変わった配置だな……)
カイトは驚きを顔に出さないように努めつつ、マジェスタの案内に無言で従った。
マジェスタに先導されて病院に入ったカイトは、病室だという小学校の教室ほどの広さの部屋に通された。 鼻を突く消毒薬の刺激臭に微かに混じる、血を思わせる鉄っぽい臭いを嗅ぎ取ったカイトの背筋が緊張でわずかに強張った。ファリーナの宗家が本拠とする本邸での歓待から明けた翌日の昼過ぎ。 カイトはファリーナ宗家が経営する病院に赴いた。ファリーナ宗家の本邸を含めレガシィ領の役所などが集まるレジアスの中心地から程近い位置に建てられた病院は、レガシィ領で最も大きな病院だという説明を受けながらカイトは歩いた。 ファリーナ宗家の執事長は当然ながら馬車を用意していたが、カイトは「街の様子を拝見したい」と理由を添えつつ丁重に断り、徒歩で病院へと向かった。 カイトに随伴するのはセリカとレオーネの二人で、揃って長身の美丈夫である二人が身に纏う純白の軍服は否応なく衆目を集めた。そんな二人を引き連れて歩を進めるカイトの姿に、レジアスの街の人々は驚きと畏敬が入り混じった視線を送った。 病院に到着したカイトを正面玄関で出迎えた初老の院長は、カイトに対し深々と頭を下げてから口を開いた。「当院の院長を務めるサンバーと申します。カイト卿の御慈悲に感謝申し上げます」「出迎え、ありがとうございます。短い滞在ではありますが、可能な限り治療に当たりたいと考えています。早速ですが、重傷の方から治療したいと思いますが……」「かしこまりました。このまま病室へ御案内いたします」 院長の案内で病室へと通されたカイトは、薬品の匂いに混じる血の鉄臭さを嗅いだ。 王都と同様の設備だった。当初のカイトの目には旧い時代のものに見えた設備だったが、今はこの世界で最新の医療設備なのだと理解していた。 なぜ治癒魔法が存在する世界でありながらドラゴンはそれを出し惜しみをするのか……カイトは胸のうちで、この世界の神たるケチなドラゴンを呪った。 病室に着くや即座に、カイトは治癒魔法での治療を始めた。 次々に重傷者を治療してゆくカイトの姿を初めて目の当たりにしたレオーネは、その感心を隠さなかった。「これぞ魔法、なんだろう……真の魔法とは、治癒魔法のことを云うんだろうな……」 レオーネの素直な感嘆に「同感だ」とセリカは短い同意を添えた。 病院に入院していた重傷の患者九名への治癒魔法での治療を終えたカイトが院長へ声を掛ける。「これで重傷者は終わりましたか?」「はい。命に関わる者は以上です」「子供の入院患者はいますか?」「数名おります」「では、その病室に案内してもらってもよろしいですか?」「もちろんです。こちらです
乾杯を済ませた八人の前には、彩り豊かな料理が次々と饗された。 レジアスの特産である様々な海鮮を多用した料理に各々が舌鼓を打ちつつ歓談する中で、この席での本題を切り出したのはアルシオーネだった。「異世界から召喚されてからのおよそ十ヶ月。カイト卿は就任した直後より我らトワゾンドール魔道士団の首席としての責を全うされておられます。それを踏まえた上で、敢えて問います。卿は実父であるダイキ卿のことを、どのように捉えておられますか」 アルシオーネの問い掛けは晩餐の席につく皆の手をピタッと止めたが、カイトだけは手を止めることもなく即座に返答した。「裏切り者です」 避けられない問いだと覚悟していたカイトが、前もって用意していた答えは単純だからこそ明確なものだった。「重ねて問います。裏切りに対する、断罪の意思はお有りですか」 続くアルシオーネの問いにも、カイトは「もちろんです」と短く即答した。「実の父親であっても、そこに躊躇はないと?」「父親だからこそ、です。既にラブリュス魔道士団の第13席次という立場にある父を、表立って非難できるのは実の息子である俺しかいないでしょうから」 第三席次を背負う深紅の強い眼光から目をそらさず答えたカイトに対し、アルシオーネは深い首肯を返した。「そうですか。カイト卿の御覚悟を聞くことが叶い安堵しました。御存知かと思いますが……先のペアホース防衛戦において、我がファリーナ家の分家に当たるマルティン家の、フォレスターとインプレッサの親子は戦死しています」「はい。聞きいています」「インプレッサと私は同い年で、魔道士官学校でも同期でした。父であるフォレスター譲りの勇猛さと、周りを明るくする明朗さを併せ持つ、気持ちの良い男でした……もし赦されるなら、私の手で仇を討ちたいという思いは捨て切れません」「……アルシオーネ卿のお気持ちは、しかと受け取りました。俺の首席としての役目は、第一に戦争を回避することであると認識していますが、同時にセナート帝国との衝突は不可避であるとも俺は認識しています。その際にはアルシオーネ卿の力を遺憾なく発揮していただきたいと、俺個人は思っています」 カイトの言葉を聞いたアルシオーネの、深紅の眼光が鋭さを増す。「衝突は不可避、ですか」「はい。セナート帝国はいずれ攻めてくるでしょう。地政学からいってもミズガル
「ストーリア・アナンと申します。お目もじが叶い光栄です」 握手に応じたストーリアの緊張を和らげるように、アルシオーネは穏やかな口調で応じた。「私に緊張する必要はありませんよ。女性同士のほうが口にしやすいこともあるでしょう。滞在中の用向きは遠慮なく私に仰ってください」「恐れ入ります」 頭を下げるストーリアの前へ進み出たレオーネは、膝を折ってストーリアの右手をそっと取った。「レオーネ・ファリーナと申します。お見知り置き願います」「ストーリア・アナンと申します。お目もじが叶い光栄です」「レジアスに滞在される間の護衛には私が当たりますので、どうか安心してレジアスでの滞在を楽しんでください」「はい。ありがとうございます」 レオーネの挨拶をストーリアの背後で聞いていたセリカは、軽口にも近い気楽な口調でレオーネへ声を掛けた。「ストーリア殿の護衛なら間に合ってるよ」 セリカの声に反応したレオーネは、にやりと笑みを浮かべて立ち上がった。「元気そうだな、セリカ。アルテッツァ卿とは変わらずか?」「ああ。レオーネこそ相変わらずのようだ」「久々に酌み交わすのが待てなくて、店はもう用意してある」「それは重畳。私も肴になる話はたっぷり用意してある」「そうか。それは一層楽しみだ」 打ち解けたやり取りをみせるセリカとレオーネの様子にストーリアがきょとんとしていると、セリカがストーリアへの説明を口にした。「レオーネと私は、王都の魔道士官学校で同期だったんです」「ああ、そうなのですね」 ストーリアが納得を声に込めて答えたタイミングで、アルシオーネが女性としては低く落ち着いており良く通る声で「さて」と会話を次へ進めた。「立ち話はこれぐらいにして、続きはワインでのどを潤してからとしましょう。本邸へ御案内します」 港の中央に位置するファリーナ家専用の車寄せには、ファリーナの権勢を誇示するようにきらびやかな3輛の屋根付き二頭立ての四輪馬車が並んで待機していた。 アルシオーネとレオーネ、カイトとストーリア、セリカとピリカが各々分乗する形で馬車へ乗り込み、オリムパス号のクルーがそれぞれの荷物を馬車へと運び入れた。 カイトらのレジアスでの滞在予定は一週間であり、その間はオリムパス号も逗留するとあってクルーたちの表情は揃って上機嫌なものだった。 荷物を積み込み終えた若
挙式から約半月が経過した7月2日。カイトとストーリアは新婚旅行へと出立した。 ミズガルズ王国にとって戦略的に重要なチョークポイントである、南西に位置するペアホース海峡と北東に位置するラペルーズ海峡への視察を兼ねたものだったが、半ば職務への随行となったことにストーリアが不平を漏らすことはなかった。 新郎新婦の護衛として随行したのは、セリカとピリカの二人だった。 ペアホース海峡へと向かう四人が乗り込んだのは、カイトとセリカにとっては見覚えのある客船だった。「このオリムパス号が、お二人の新婚旅行に花を添えることをお約束しましょう」 恰幅のいい船長は満面の笑みで、乗船したカイトへの歓待の意を示した。「シルバラード船長の船にまた乗れるなんて、俺は幸運ですね」 カイトも笑みで応じてシルバラードとの握手を交わした。「幸運なのは私どものほうですよ。カイト卿の乗船にクルーの意気も上がっております」「それはありがたいです。よろしくお願いします」 頭を下げるカイトの姿に触れたシルバラードが、ガハハと豪快に笑う。「腰が低いのは相変わらずのようですな。前回のように、クルーにも声を掛けてやってください。大喜びしますので」「はい。そうさせてもらいます」 オリムパス号は予定時刻の正午に鳴る時の鐘に汽笛を重ね、最初の目的地となるペアホース海峡に接するレガシィ領のレジアス港へ向けて出港した。 レガシィ領はミズガルズ王国の西端に位置しており、日本列島に似た地形であるミズガルズ列島の西、日本で言えば九州に相当するエリアだった。 御三家と呼ばれる有力貴族の中でも最大の勢力を誇るファリーナ家が治める地で、国土の西を広範囲に抑えるファリーナ家は鎮西家とも呼ばれていた。 ストーリアの生家であるカストリオタ家はファリーナ家の分家に当たり、その領地は日本で言えば四国に相当するエリアの一部だった。 レジアス港はミズガルズ王国にとって最重要に位置付けられる港湾であり、港湾都市であるレジアスは太古からアフラシア大陸との交易の中心であって、今の王室が成立する以前から外交を担っていた長い歴史を有する古都でもあった。 歴史的な背景もあって独立性の高い気風が根差しており、ファリーナ家はその気風を支える精神的な支柱としても機能していた。 王都のプログレ港を出港したオリムパス号が、レジアス港へ
晴れて夫婦となったカイトとストーリアが、結婚を機に延び延びとなっていた引っ越しを披露宴前日までに済ませた二人の新居へと戻ったのは、6月の太陽がすっかり沈んだ頃合いだった。 サイオン公爵としてサイオン領を拝領しているカイトではあったが、筆頭魔道士の首席魔道士としての職務を優先させ、王宮からほど近い位置にある王都の中でも有力な貴族の所有する屋敷の建ち並ぶエリアが二人の新居として選ばれた。 御三家の中でも王都に最も多くの土地を所有するガンディーニ家の所有していた屋敷を王室が買い取り、改装された屋敷は公爵でもあるカイトが構える屋敷としては最小限の大きさに抑えられた。 カイトの希望を宰相セルシオが聞き入れた結果として選ばれた小振りな屋敷は、ストーリアの希望もあってそこで働く使用人も最小限に抑えられた。 使用人の面談などはストーリアがすべて行い、それがストーリアにとってサイオン公爵夫人としての最初の仕事となった。 主である二人の帰宅を待っていた使用人たちにストーリアが本日の業務終了を告げてから、食堂へと移動したカイトとストーリアは互いにどこか落ち着かなかった。「なにか飲まれますか?」「ああ、そうだね……いや、自分で淹れるよ」「では、わたしは湯浴みしてまいります」「うん……」 食堂に残ったカイトは酔い醒ましのハーブティーを淹れることにした。 何か体を動かしていないと落ち着かない自分を少し情けなくも思ったが、初夜を前にして湯浴みしている妻を悠々と待っているだけの胆力など今の自分にはないとカイトは自認していた。 カイトが食堂でハーブティーを飲んでいると、湯浴みを終えたストーリアがシルクの寝衣で現れた。 頬をかすかに上気させたストーリアが、カイトの目にはやけに艶めかしく映った。「カイト様も湯浴みなさいますか?」「あ、ああ、うん。そうするよ……そうだ、ストーリアにお願いがあるんだけど」「なんでしょうか?」「俺に対しての敬語はもう無しにしない?」 カイトの提案を聞いたストーリアが右手の人差し指を頬にあて、少し迷った顔を作ってみせる。「そうですね。努力してみますが、すぐには難しいです」「そうか。うん、分かった。おいおいだね。じゃあ、湯浴みしてくるよ……あ、もう一つだけお願いがあって……」「なんでしょう?」「これからは寝るときに香水はつけないで欲
激動の聖暦1890年に、青葉の薫りを運ぶ爽やかな風が吹き抜ける6月の15日。 カイト・アナンとストーリア・カストリオタ両人の挙式がレザレクション大聖堂で執り行われた。 6月中の挙式という新郎新婦の希望を尊重した宰相セルシオの配慮により、ミズガルズ王国の筆頭魔道士団の首席魔道士であり王配直系の公爵でもあるカイトの結婚式としては、異例の短い準備と告知の期間による挙式と披露宴となった。 天候に恵まれた日曜日の大聖堂には、王国の英雄として人気を博すカイトの結婚を祝うため多くの人々が朝から詰めかけていた。 当初、カイトは結婚式を家族を中心とした小規模なものに出来ないかと希望を伝えてみたが、それはセルシオによって即座に却下された。「我が国の首席魔道士であり、対外的にも最重要人物である卿の挙式は、国家行事に等しいものです」 セルシオの言葉は真っ当なもので、ストーリアも同様の理解を示したため、カイトは宰相の決定を受け入れざるを得なかった。 カイトの結婚に際しては王家の中で一悶着もあった。 王配であるケンゾーの孫に当たるカイトの結婚相手は、タンドラ王太子の長女であるヴェルデ王女というのが半ば暗黙の了解として、王家全体の意向となっていたのが原因だった。 カイトをテルスへと召喚した術式を構築したヴェルデ本人も、自身がカイトの妻となるのは当然だと認識していた。 女王セルリアンとケンゾーの長子であるタンドラ王太子はカイトに対し、ヴェルデを正妻としてストーリアは公妾、いわゆる側室という形で迎え入れてはどうかと、二人きりでの面談の席を設けて提案をした。 カイトはその席での返答は保留し、ケンゾーとセルリアンにストーリアを本妻とするための協力を申し出た。 ケンゾーはすんなり快諾し、セルリアンも王太子側との関係を憂慮しつつも了承した。 タンドラ王太子も女王の意向とあっては表立っての反対は取れず、カイトがストーリアを本妻として迎え入れる結婚を阻止することを断念した。「あなたはストーリアを妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」 大司教からの誓約の問い掛けに答えたカイトとストーリアは、観衆から送られる祝福の声に応えつつ儀装馬車へ乗り込み、披
その日の夕刻にはシルビアを歓迎するという趣旨で少人数に限った晩餐の席が、ミズガルズ王国の宰相であるセルシオが自ら手配して設けられた。 王族や御三家と呼ばれる有力な貴族、国内外の流通を掌握する大商人などを顧客に持つミズガルズ王国内でも指折りの高級レストランが晩餐の場となった。 総座席数が百五十を越える規模でもミズガルズ王国内屈指のレストランにあって、限られた上得意のみが通される最奥の大きな個室が会場となった晩餐には主催のセルシオと主賓であるシルビアの他に、シルビアの案内役を自ら買って出たアルテッツァとパートナーであるセリカ、セルシオの計らいで招かれたステラ、そしてセナート帝国が主催する祝
ウァティカヌス聖皇国で太魔範士の称号を授与されたカイトが、ミズガルズ王国へと帰国した二日後の水曜日。 師走を目の前にする十一月二十七日の昼過ぎ、王都プログレの港にセナート帝国の威光を示すように黒光りする装甲板で固められた大型汽船が入港した。 乾いた北風が冬の匂いを運ぶ中、シルビアがミズガルズ王国の地に降り立つ。 年末の賑やかな港にあっても、シルビアが纏う漆黒のラブリュス魔道士団の軍服は異様な迫力を有しており衆目を集めた。 忌避を含んだ視線を集めるシルビアには、人々の視線を気にする様子はまるで無かった。 シルビアを出迎えるために港へと赴いたのは、アルテッツァとセリカの二人だった。
セルシオに先導されて移動した執務室へと入室したカイトたち三人は、セルシオにすすめられるままソファへ腰掛けた。 重厚なデスクの上にあった一通の書簡をセルシオは手に取ると「セナート帝国からの招待状です」と言い添えてカイトに手渡した。「セナート帝国? 招待状、ですか……?」 オウム返しに仮想敵国の名を口にしながら、カイトは書簡に目を落とした。「カイト卿の聖魔道士および太魔範士、その授与を祝賀するセナート帝国主催の晩餐会への招待状です」 カイトは書簡の文面にざっと目を通した。「これは……赴かない訳にはいきませんね……」 顔を上げたカイトが感想を口にすると、セルシオは首肯を返した。「
その晩に催されたカイトの叙位と授与を祝賀する晩餐会の席で、カイトとアルトゥーラは約束した通りにお互いの身の上話に花を咲かせた。 当初の予定通りカイトたちはウァティカヌス聖皇国に一週間滞在した。 カイトは滞在中に、クーリアが選別した各国の新聞社に属する記者の数人と対面して取材に応じた。 太魔範士という称号への反響の大きさは、カイトの想定をはるかに越えるものだった。 各紙の紙面には『ミズガルズ王国の首席魔道士が二人目の太魔範士に』『聖魔道士にして太魔範士であるカイト卿が今後の世界情勢に与える影響とは』『覇王の次に新たな時代の旗手となるのは聖人か』といった見出しが踊った。 ミズガルズ王







